ネイチャーポジティブとは?企業、個人ができる取り組みについて解説します

今日、私たちの地球は前例のない環境危機に直面しています。

しかし、“ネイチャーポジティブ”という概念が提案する解決策は、生物多様性の保護とエコシステムの回復を通じて、これらの課題を乗り越える希望を与えます。ネイチャーポジティブな取り組みは、経済成長と環境保全の両立を目指し、持続可能な未来を実現するための鍵となります。本記事では、ネイチャーポジティブがどのように地球の生態系と人類社会に利益をもたらすか、そして私たち一人ひとりがどのように貢献できるかについて掘り下げていきます。

ネイチャーポジティブとは何か?

ネイチャーポジティブは、生物多様性などの自然資本の毀損に歯止めをかけ、将来的には回復軌道に乗せる取り組みです。気候変動対策と深く関連しており、自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる目標に基づいています(牧之内, 2023)。

出典:WWF Japan 『生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー』

ネイチャーポジティブが世界的に求められている背景には、自然の損失が一層進行しており、その進行が科学的に明らかになったことがあります

IPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム)の「地球規模評価報告書」によると、多くの生態系サービスおよび生物多様性が急速に減少していることが指摘されています。この自然の損失は、人類の活動によるものと科学的に明らかにされており、特に企業活動による自然損失が看過できないレベルに達していることが明らかにされています(今泉翔一朗, 2023)。 

出典:IGES「IPBES生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」

自然の損失が人類の生活に危険をもたらすことは、生物多様性や生態系サービスが提供する価値に依存しているためです。

これには、気候調節、水質の調整、エネルギー供給、身体・心理的体験の提供などが含まれます。自然資本および生態系サービスを支える生物多様性の喪失は、これらのサービスの提供に直接影響を与えるため、生物多様性の保全が求められる理由の一つとなっています。 

 ネイチャーポジティブが経済に与える影響は?

その一方で、ネイチャーポジティブな取り組みは経済にプラスの影響を与える可能性があります。自然を回復させることによって、エコシステムサービスの提供を保障し、持続可能な開発を促進します。また、生物多様性の保全と回復は、気候変動対策とも密接に関わり、災害リスクの軽減や農業、漁業など自然資本に依存する産業の安定に寄与することで、長期的な経済成長を支える要因となり得ます

なぜ企業がネイチャーポジティブに関わるのか?

企業がネイチャーポジティブに関わる理由は、自然へのインパクト(影響)評価と、その評価に基づく事業改善が強く求められているからです。

CBD-COP15で締結された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」においては、2030年までに自然を回復の道筋に乗せるために、生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動を取ることが目指されています。

また、企業に対しては、自然資本および生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みであるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークの最終版が公開される予定であり、自然への影響評価とその開示が強く求められています。企業におけるネイチャーポジティブの活動は、自然への負の影響を徐々に低減し、持続可能な生産様式を確保するための行動を推進することを目的としています(今泉翔一朗, 2023)。

ネイチャーポジティブ経営の具体的な方法とは?

それでは、企業ができるネイチャーポジティブ経営とは、どのように行うのでしょうか?具体的には方法には以下のステップで行います。

1. 自然関連インパクト評価の実施

ネイチャーポジティブへの取り組み 企業活動による自然へのインパクト(影響)評価および評価を踏まえた事業改善が求められています。これには、自然の損失進行の科学的証拠に基づく危機感の高まりが背景にあります。

2. 自然関連インパクト評価ツールの構築と必要性

ツールの要件: 企業が事業活動の自然への影響を容易に評価できるように、自然関連インパクト評価ツールが求められます。このツールは、事業活動データと事業実施地域を入力することで、自然関連の正・負の影響評価が出力される機能を有します。

3. 自然関連インパクト評価ツールの構築方法

構築方法の概要: 自然関連インパクト評価ツールを構築するためには、事業活動と自然関連インパクトの関係性を定義するモデル(インパクトドライバーモデルとネイチャーモデル)および、そのモデルにおける情報処理に必要なデータベース(インパクトドライバー係数データベース、ネイチャー係数データベース、自然関連地理空間データベース)を構築する必要があります。

具体的なステップ

1. インパクトドライバーモデルの構築:

   – 事業活動から直接的な影響要因(インパクトドライバー)への関係を定義します。

2.ネイチャーモデルの構築:

   – インパクトドライバーから自然資本や生態系サービスへの影響、さらにその先の社会面・環境面での波及的影響を評価できるモデルを定義します。

3. データベースの構築:

  •  インパクトドライバー係数データベース:事業活動に応じた汎用的な係数を格納したデータベースです。
  • ネイチャー係数データベース:ロケーションごとにその値が異なる場合がある係数を格納したデータベースです。
  • 自然関連地理空間データベース:ロケーションごとの自然の状態や自然に依存するステークホルダーの利用状況を取りまとめたデータベースです。

このプロセスを通じて、企業は自社およびサプライチェーン全体での自然への影響を包括的に評価し、具体的な改善策を講じることが可能になります。こうしたステップは、ネイチャーポジティブな取り組みを具体化し、自然との共生を実現するための道筋を示す重要な手段となります。

4. 実践への応用

評価結果の活用:事業活動による自然への影響の評価結果を事業改善や新事業開発のチャンスとして活用します。これにより、自社事業や他社事業の改善に資する新製品やサービスの開発へと繋がります。

持続可能な生産様式の確保:自然への負の影響を徐々に低減しながら、持続可能な生産様式を確保することが、ネイチャーポジティブ経営の究極の目的です。これは、生物多様性への影響評価と情報公開を促進し、ビジネスおよび金融機関への生物多様性関連リスクを減らすための行動を推進することを意味します。

5. 継続的な発展と協力

産学官民の連携:自然関連インパクト評価ツールのモデル・データベースの構築と維持は、産学官民が持つ専門性や既存の知見を活用し、連携して進めることが望ましいとされています。これは、ネイチャーポジティブへの取り組みを加速させ、より幅広い企業や組織での実践を促進するために重要です。

持続的な改善とイノベーション:自然関連インパクト評価ツールは、一度完成したら終わりではなく、新たな科学的知見や技術的進歩に基づいて継続的に発展させる必要があります。これにより、企業は常に最新の情報に基づいた評価と改善を行うことができます。

企業がネイチャーポジティブ経営を実践するには、自然への影響を評価し、その結果を基に持続可能な事業改善を行うための具体的な方法論が必要です。提案された自然関連インパクト評価ツールは、そのような取り組みを実現するための重要な基盤を提供します。

ネイチャーポジティブな取り組みの世界的な例は?

世界的には、様々な国や企業がネイチャーポジティブな取り組みを実施しています。例えば、CBD COP15で採択された「昆明・モントリオール世界生物多様性フレームワーク」では、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標が掲げられています。

日本では「30by30ロードマップ」を策定し、保護区の拡大や生物多様性の重要地域での保全活動の効果を可視化する取り組みが進んでいます。

https://www.env.go.jp/press/110887.html

米国では、バイデン政権が「America the Beautiful」構想の下、「30by30」目標を推進し、自然保護、農業、森林再生を通じて労働者に力を与えることを目指しています(原口, 2023)。

個人レベルでできるネイチャーポジティブな行動とは?

最後に、個人レベルでできるネイチャーポジティブな行動には、地域の自然保護活動への参加、持続可能な消費選択、自然環境への配慮を意識した生活スタイルの実践などがあります。また、生物多様性を守るための啓発活動への参加や、身近な環境の保全活動に積極的に関わることも重要です。

まとめ

地球は前例のない環境危機に直面しており、その解決策として「ネイチャーポジティブ」の概念が提案されています。

これは、生物多様性の保護とエコシステムの回復を通じて、経済成長と環境保全の両立を目指すものです。本記事では、ネイチャーポジティブの意義、企業や個人がどのように貢献できるか、そしてその経済への影響について詳しく解説しました。

ネイチャーポジティブな取り組みは、自然との共生を実現し、持続可能な未来に向けた行動を促進することを目的としています。企業活動による自然への影響を評価し、改善策を講じることが強く求められており、企業や個人レベルでの具体的な行動が示されています。このような取り組みは、自然の回復を促し、生物多様性の損失を防ぎながら、経済にもプラスの影響をもたらすことが期待されています。

参考文献

・牧之内芽衣 (2023). ネイチャーポジティブとは何か〜再び集まる生物多様性への注目〜. ビジネス環境レポート 2023.3, 第一生命経済研究所.

・原口真 (2023). ネイチャーポジティブに向かう国際動向の最新状況. ランドスケープ研究 87(1), 2023.

・今泉翔一朗. (2023). 企業のネイチャーポジティブ実践に向けて – 自然関連インパクト評価ツールの提案. JRIレビュー 2023 Vol.5 No.108.

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