なでしこ銘柄とは?定義や令和5年度の選定企業や選定方法、投資家・企業のメリットまで完全解説

なでしこ銘柄

近年、ジェンダー平等と企業のダイバーシティ推進は、単なる社会的正義の問題を超え、経済的価値をも生み出しています。特に、「なでしこ銘柄」として選定される企業は、女性の活躍を経営戦略として取り入れ、その成果が注目されています。

本稿では、令和5年度のなでしこ銘柄の選定企業の事例を踏まえ、そもそもなでしこ銘柄とは何か?なでしこ銘柄がなぜ投資家・企業にとって有益なのか、銘柄の取得のために、企業が心がけるべきポイントとは何かについて、論文をもとにわかりやすく説明してゆきます。

  なでしこ銘柄とは何か?

「なでしこ銘柄」とは、女性の活躍推進に優れた上場企業を経済産業省と東京証券取引所が選定し、投資家や社会に向けて推奨する制度です。「なでしこ銘柄」に選ばれることは、企業が女性活躍推進に関して優れた取り組みを行っている証として、企業価値の向上やブランドイメージ強化に寄与します。

また、「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」とは異なり、「なでしこ銘柄」は特に女性の活躍推進に焦点を当てた選定基準が設けられています(令和5年度「なでしこ銘柄」レポートより)。

なでしこ銘柄が必要になった背景とは?

 日本のジェンダーギャップ指数は、世界経済フォーラムの「Global Gender Gap Report 2020」によると、教育や健康の分野では比較的良いスコアを獲得していますが、政治や経済分野では大きく遅れをとっており、特に政治分野では156か国中123位、経済分野では120位と低い順位に位置しています(「上場会社における女性役員登用の再検証」より)。

このような状況が、「なでしこ銘柄」の必要性を示唆しています。経済的、社会的なダイバーシティの推進は、企業のイノベーションや競争力の強化に寄与し、結果として社会全体の経済成長に貢献すると考えられます。

さらに、女性活躍推進法や東京証券取引所のコーポレート・ガバナンスコードが制定され、これらは企業に対して女性の活躍推進を促し、社会からの信頼獲得につながる法的・規範的枠組みを提供しています。このような背景のもとで、「なでしこ銘柄」の選定は、企業にとって女性の活躍を具体的に推進する動機付けとなり、投資家にとっても、よりダイバーシティが高い企業への投資が望まれる状況が生まれているのです。

なでしこ銘柄の選定基準は?

この章では、最新版の令和5年度のなでしこ銘柄の実施概要や選定フローについて解説します。

実施概要

「なでしこ銘柄」の選定対象となるのは、全上場企業約3,900社です。

東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」p13より引用

応募期間は、令和5年(2023年)9月27日時点で東京証券取引所のプライム市場、スタンダード市場、グロース市場に上場している全ての企業(外国株を含む)が対象です。選定された銘柄の総数は、27社であり、その中には「なでしこ銘柄」に18社、1業種の上限は2社と定められ、「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」では16社、1業種の上限は2社です。

 応募状況

東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」p14より引用

応募総数は288社であり、「なでしこ銘柄」に230社、「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」には58社が応募しました。特に応募数が多かった業種は「情報通信」であり、次いで多かったのは「サービスその他」の業種です。

 選定方法

選定フローは以下の通りです:

東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」p15より引用

  • 1. 対象企業が自社の女性活躍推進に関する情報を基に、「なでしこ銘柄」または「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」の応募書類を作成します。応募書類には以下の2つが含まれます。
    • – 女性活躍度調査票(Excelファイル)
    • – 自己評価書(Wordファイル)
  •   2. 応募書類は、厳正な審査プロセスを経て選定されます。選定基準には、女性活躍推進に関する具体的な活動や取り組み、それらの効果や実績、および財務指標が含まれています。
  • 3. 最終的に選ばれた「なでしこ銘柄」は27社(業種別の上限2社を考慮)、さらに「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」は16社(業種別の上限2社を考慮)が選定されます。
  • 4. 選定プロセスは、「なでしこ銘柄」選定委員会によって実施され、最終選定にあたっては、女性活躍度調査のスコアリング結果と財務指標による加点を経て、業種ごとに上位にランクインした企業が選ばれます。
  • 5. 選定された企業は「なでしこ銘柄」及び「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」として発表され、投資家や社会に推奨されます。

この選定プロセスは、企業の女性活躍推進の取り組みの実効性と財務的な成果を総合的に評価し、投資家にとって魅力ある投資先としてのポテンシャルを示すことに寄与します。

 なでしこ銘柄に投資するメリットは?

「なでしこ銘柄」に投資するメリットには、女性の活躍を経営戦略として取り入れた企業が示す高い株価パフォーマンスや、高い売上高営業利益率につながること、さらに社会的責任投資(SRI)の一環としてのダイバーシティの推進が挙げられます。

高い株価パフォーマンス

「なでしこ銘柄」選定企業の株価はTOPIXと比較しても堅調に推移しており、投資家からの評価が高いことが示されています。具体的には、「なでしこ銘柄」選定企業の株価は、TOPIXの上昇トレンドとほぼ同様の傾向を示していますが、一部でTOPIXを上回るパフォーマンスを見せています。

東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」p11より引用でしこ銘柄」レポート」p12より引用

売上高営業利益率と配当利回り

「なでしこ銘柄」選定企業群は、売上高営業利益率でTOPIXの平均値よりも優れており(9.6%に対してTOPIX平均が6.4%)、配当利回りでも優位性を示しています(4.7%に対してTOPIX平均が2.2%)。これは、選定された企業が経営効率と株主還元の点で、より高い効率性と利益還元性を持つことを意味しています。

東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」p11より引用でしこ銘柄」レポート」p13より引用

社会的責任投資(SRI)の一環としてのダイバーシティの推進

「なでしこ銘柄」への投資は、社会的責任投資(SRI)の一環として、企業のダイバーシティ推進に対する意識と取り組みを示すものです。

投資家にとっては、女性活躍の推進が企業の持続可能な成長と経済的パフォーマンス向上に寄与するという研究結果が示されており(上場会社における女性役員登用の再検証, 2021)、それは投資リスクの低減や投資先の選定基準としての価値があります。

一方で、企業側では女性の登用が内外からの評価を高め、企業ブランドの向上や才能の多様性を通じたイノベーションの促進につながるとされています。さらに、東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードや女性活躍推進法などの規制要件を満たし、グローバル基準に対応する企業として認知されるメリットがあるため、経済的なメリットだけでなく、法的・社会的な信頼の構築にも寄与すると考えられます。

 なでしこ銘柄の最新一覧は?

令和5年度の「なでしこ銘柄」には、様々な業種から選ばれた27社が選定されています。これらの企業は、女性の活躍推進に関する取り組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所から高い評価を受けた企業です(令和5年度「なでしこ銘柄」レポートより)。

銘柄コード 企業名 業種
2802 味の素株式会社 食品
2502 アサヒグループホールディングス株式会社 食品
5019 出光興産株式会社 エネルギー資源
5938 株式会社LIXIL 建設・資材
4911 株式会社資生堂 素材・化学
4922 株式会社コーセー 素材・化学
4519 中外製薬株式会社 医薬品
4523 エーザイ株式会社 医薬品
7259 株式会社アイシン 自動車・輸送機
5802 住友電気工業株式会社 鉄鋼・非鉄
6289 株式会社技研製作所 機械
6301 株式会社小松製作所 機械
6645 オムロン株式会社 電機・精密
9719 SCSK株式会社 情報通信
2181 パーソルホールディングス株式会社 サービスその他
9531 東京ガス株式会社 電気・ガス
9532 大阪ガス株式会社 電気・ガス
9104 株式会社商船三井 運輸・物流
9101 日本郵船株式会社 運輸・物流
8001 伊藤忠商事株式会社 商社・卸売
8252 株式会社丸井グループ 小売
2702 日本マクドナルドホールディングス株式会社 小売
7182 株式会社ゆうちょ銀行 銀行
8381 株式会社山陰合同銀行 銀行
8601 株式会社大和証券グループ本社 金融(除く銀行)
8750 第一生命ホールディングス株式会社 金融(除く銀行)
8801 三井不動産株式会社 不動産業

 令和5年度「なでしこ銘柄」で評価が高い企業事例は?

令和5年度の「なでしこ銘柄」で特に評価が高かった企業には、アサヒグループホールディングス株式会社、株式会社商船三井、パーソルホールディングス株式会社があります。それでは、3社の高い評価の理由をそれぞれ見てゆきましょう。

アサヒグループホールディングス株式会社 

例年高評価を受けているアサヒグループホールディングスですが、令和5年度の高評価の理由は、以下の4点です。

  • 経営層の女性比率に関する目標設定: アサヒグループホールディングスは、経営層における女性の比率向上を目指す高い目標を設定しており、これが評価されました。食の好みの多様化や機能性の高まりが進む中、人材の多様性を活かす戦略が期待されるとされています。
  • 経営トップのコミットメント: 同社の経営トップは、女性の活躍推進に関する強いコミットメントを示しており、課題を明確に認識した上で、そのギャップを解消するための施策を行い、その成果を検証しています。
  • 女性経営層比率向上の取り組み: キーポジションにおけるサクセッションプランに女性の候補者を含めるなど、女性経営層の比率向上に向けた具体的な取り組みを行っています。また、中長期的な観点から、新卒採用者における女性比率の目標を50%に設定している点も評価されています。
  • 女性の経営層増加: 女性の経営層が着実に増加していることが評価され、今後は管理職層の女性比率についてもさらなる拡大が期待されています。

 パーソルホールディングス株式会社

パーソルは令和5年度に初めて銘柄に選定されました。委員からの高評価の理由は、以下の3点です。

https://www.persol-group.co.jp/news/20240322_01/

  • 体制の整備と戦略の明確さ:パーソルホールディングスは体制が整備され、モニタリング項目を細かく設定するなど、戦略が明確である点が評価されています。
  • キャリアオーナーシップへの取り組み:キャリアオーナーシップに関する取り組みを開示しており、その先進性が評価されています。企業価値と多様性の関連を定量分析を含めた検討や、派遣スタッフのエンゲージメント強化とその開示が期待されています。
  • ダイバーシティの全社文化への活用:Business Unit毎の目標設定や分科会活動を通じて、ダイバーシティを全社の企業文化に活用する施策が実行されていることが高く評価されています。女性活躍のために男性にも施策を行うという考え方に共感が示されています。
  • 情報開示への積極的な姿勢:情報開示において更なる能動的な姿勢が期待されています 。

 株式会社商船三井

商船三井は、4年連続の選定となります。委員からの高評価の理由は、以下の4点です。

https://www.mol.co.jp/pr/2024/24037.html

  • 経営へのコミットメント:COOがダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DE&I)の推進責任者であるため、経営へのコミットメントが評価されています。取り組みと企業価値向上との関連がさらに明確になることが期待されています。
  • 目標達成への経営幹部の関与:経営幹部による「人材育成コミッティー」で、部門別の女性管理職育成状況と目標達成状況のモニタリングが実施されています。労働時間削減への注力や、ワークライフバランスの向上策など、具体的な働き方改革が行われています。
  • 変化と成果の顕在化:課長職相当の女性比率上昇や、女性船長の誕生などの画期的な成果が認められています。また、社内外に対する明確なメッセージとして、MOL Group Key Positionの設定などの開示が評価されています。
  • 情報開示の充実:情報開示の媒体が充実しており、「Human Capitalビジョン」の三つの原則の第一がDE&Iであることや、統合報告書中のCEOメッセージで「真のグローバル企業」を目指すためのDE&Iの重要性に触れられていることが評価されています 。

経済産業省が注目する女性活躍推進の「注目企業」とは

経済産業省は、女性活躍推進に戦略的に取り組むベストプラクティスを、「注目企業」として同省ホームページに紹介しています。

今後の女性活躍推進に参考になる事例が非常に多く掲載されているので、ぜひ一読してみてください。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/r5chumokukigyou.pdf

まとめ

いかがだったでしょうか?「なでしこ銘柄」への投資は、女性の活躍を経営戦略として取り入れる企業に対する社会的責任投資(SRI)の一環であり、これらの企業が示す堅調な株価、優れた売上高営業利益率、高い配当利回りは、経済的メリットをもたらすことが認められています

法的・社会的な信頼を構築し、イノベーションと競争力の強化を促す「なでしこ銘柄」の選定は、女性活躍推進法やコーポレート・ガバナンスコードを通じた企業の社会的責任の証として、投資家にとっても、よりダイバーシティに富んだ企業への投資が望まれる状況を反映しています。

本記事が、皆さまの企業における女性活躍推進を考える一助になれば嬉しい限りです。

参考文献

-東京証券取引所(2024),「 令和5年度「なでしこ銘柄」レポート」https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/1120/20240321-01.html#:~:text=%E3%81%AA%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%93%E9%8A%98%E6%9F%84%E3%81%AF%E3%80%81%E6%9D%B1%E8%A8%BC%E3%81%AE,%E3%82%92%E7%B4%B9%E4%BB%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82 (最終閲覧日:2024/3/24)

– 上田 廣美(2021)上場会社における女性役員登用の再検証 : 「令和元年度なでしこ銘柄」報告書をてがかりとして,亜細亜法学 / 亜細亜大学法学研究所 編 55(1・2):2021.1 

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