サステナビジョンズラボ 
現代のビジネス環境は、急速な変化と共に新たな課題をもたらしています。企業価値を長期的に向上させ、社会課題への貢献を目指すなら、価値協働ガイダンスが鍵を握っています。
経済産業省が提供するこの革新的なフレームワークは、企業が持続可能性を核とした経営を実践し、強固な社会的責任を果たすための道しるべです。この記事では、価値協働ガイダンスの背後にある考え方から、フレームワーク具体的な実践方法まで、わかりやすく解説します。企業経営者から投資家まで、全てのステークホルダーが共に前進するための、重要な情報を提供します。
価値協働ガイダンスとは？
価値協働ガイダンスとは、企業がステークホルダーとの間で価値を共同で創造し、持続可能な社会の実現に貢献するための指針。このガイダンスは経済産業省によって策定され、その目的は企業価値の持続的な向上と社会課題の解決を図ることにあります（経済産業省, 2022）。
経産省『企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」』https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/ESGguidance.html
価値協働ガイダンスの元となった、伊藤レポートとは？
伊藤レポート1.0から3.0までのシリーズは、日本の経済産業省によって発行された一連の報告書で、企業の持続可能な成長と競争力強化に焦点を当てています。これらのレポートは、企業価値向上推進のための戦略的アプローチを提言し、特に無形資産の管理と活用、環境・社会・ガバナンス（ESG）の取り組み、そしてステークホルダーとの対話強化を重視しています。
- 伊藤レポート1.0: この初版は、企業が直面する新たな経済環境に適応し、長期的な企業価値を向上させるための基本的なフレームワークと方向性を提示しました。
- 伊藤レポート2.0: 続編では、より具体的な実践方法と、持続可能な成長を実現するための詳細な戦略が提案され、特に非財務情報の開示とその重要性が強調されました。
- 伊藤レポート3.0: 最新版では、サステナビリティ・トランスフォーメーション（SX）への取り組みが中心となり、企業と投資家間の対話の質を高め、社会全体のサステナビリティ向上に貢献するための具体的なアクションプランが提案されています。
伊藤レポート1.0から3.0に至るまでの経緯は、日本企業の持続可能な成長と競争力強化を目指し、企業価値向上に必要な無形資産への投資とESG（環境・社会・ガバナンス）要因への注目を高めることに重点を置いています。
特に伊藤レポート3.0は、サステナビリティ・トランスフォーメーション（SX）の重要性を強調し、企業と投資家間の対話強化を促しています（経済産業省, 2022）。
価値協働ガイダンスが必要となる背景
価値協働ガイダンスが発行された背景には、産業構造の変化、グローバルな気候変動問題、ESG課題の高まりなど、企業活動の持続可能性に大きな影響を及ぼす外部環境の変化があります。これらの変化に対応し、中長期的な企業価値向上と社会のサステナビリティを両立させるためには、企業とステークホルダー間での価値の共創が不可欠です。
価値協働ガイダンスの改訂の経緯と意義
価値協働ガイダンスの改訂は、サステナビリティ・トランスフォーメーション（SX）の実現を促進するための新たな枠組みを提供することに焦点を当てています。改訂は、企業がサステナビリティに対応した経営戦略を策定し、投資家との対話を通じてそのストーリーを磨き上げ、企業価値の持続的な向上を目指すための具体的なアクションを促すことを意図しています。
また、価値協働ガイダンスは、企業経営者にとって自社の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示とステークホルダーとの対話を通じて企業価値を向上させるための具体的なフレームワークを提供します。同時に、投資家にとっては、企業の持続可能性や中長期的な成長ポテンシャルを評価するための重要な情報源となり、より賢明な投資判断を下すための基盤を提供します（経済産業省, 2022）。
「価値創造ガイダンス」の中の6つのフレームワーク
ここからは「価値創造ガイダンス」内の6つのフレームワークについて、その概要、構成要素の総論、各論、および使用時の注意点を具体的かつわかりやすく説明します。
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
1. 価値観
企業及び社員が社会課題の解決に向けて取るべき行動の判断軸です。価値観は、企業が自社固有の価値観を通じて、どの社会課題を解決するかを決定する基礎となります。
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
ポイント:
価値観は企業理念や企業文化に根ざしており、企業の存在意義や社員の行動指針を形成します。
・企業理念: 企業の根本的な信念や価値観を示し、全ての戦略的決定の基盤となります。
・企業文化: 企業の日常の行動、決定プロセス、優先順位に反映される、共有された信念や価値観の集合です。
・フレームワークの使用時の注意点: 価値観は静的なものではなく、社会の変化や組織内の成長に合わせて進化する必要があります。そのため、定期的な見直しと更新が必要です。
2. 長期戦略
長期戦略とは？
企業が目指す長期的なビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルの構築や変革、リスクと機会の分析を統合的に行います。
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
ポイント:
長期戦略は、長期ビジョン、ビジネスモデル、リスクと機会の分析から構成されます。
・長期ビジョン: 社会に対して長期的かつ持続的にどのように価値を提供し、企業価値を向上させるかの目指す姿。
・ビジネスモデル: 長期ビジョンを実現するための具体的な事業運営の仕組みやプロセス。
・リスクと機会: 長期戦略の実現に影響を及ぼす潜在的なリスクと機会の識別と分析。
・フレームワークの使用時の注意点: 長期戦略の策定と実行は、外部環境の変化に柔軟に対応できるように、継続的な監視と調整が必要です。
3. 実行戦略
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
長期戦略を具体的なアクションプランに落とし込み、目標達成に向けた具体的なステップを定義します。
ポイント：
構成要素実行戦略は、具体的な目標設定、資源配分、進捗のモニタリングといったステップから構成されます。
・目標設定: 長期ビジョンとビジネスモデルに基づく、具体的かつ測定可能な短期〜中期の目標を設定します。
・資源配分: 目標達成に必要な人的、財務、物理的資源を効果的に割り当てます。
・進捗モニタリング: 定期的なレビューを通じて、戦略の実行状況を監視し、必要に応じて調整します。
・フレームワークの使用時の注意点: 実行戦略は、内外の環境変化に対して柔軟に対応できるよう、定期的な見直しと適応が必要です。また、全社員が戦略に対する理解とコミットメントを持つことが成功の鍵です。
4. 成果と重要な成果指標（KPI）
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
目標達成のための進捗を測定し、評価するために重要な成果指標（KPI）を設定します。
ポイント:
– 成果: 戦略やアクションプランの結果として達成された具体的な成果。
– KPI: 成果を定量的に測定するための指標。戦略の効果を明確にするために選定されます。
– フレームワークの使用時の注意点: KPIは適切に選定され、定期的に見直される必要があります。また、KPIを追跡するプロセスは、透明性があり、全関係者がアクセスできるようにすることが重要です。
5. ガバナンス
組織の意思決定機構とプロセスを整備し、戦略の実行を支援します。
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
ポイント:
ガバナンスは、組織の運営と管理の枠組みです。
– 組織構造: 効果的な意思決定を行うための組織の構造。
– 意思決定プロセス: 明確かつ効率的な意思決定を行うためのプロセス。
– フレームワークの使用時の注意点: ガバナンス構造は透明性が必要であり、ステークホルダーの参加と監督を確保することが重要です。また、ガバナンス構造とプロセスは、組織の規模や業種、文化に合わせてカスタマイズされる必要があります。
6. 実質的な対話・エンゲージメント
ステークホルダーとの建設的な対話とエンゲージメントを通じて、企業の価値創造プロセスに対する理解と支持を深めます。
経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）より引用
-ポイント:
実質的な対話・エンゲージメントは、企業とステークホルダー間の信頼関係の構築、情報の共有、意見の交換を含みます。
– ステークホルダー識別: 重要なステークホルダーを識別し、彼らの期待やニーズを理解する。
– コミュニケーションチャネルの確立: 効果的なコミュニケーションのためのチャネルを確立し、維持する。
– フィードバックの活用: ステークホルダーからのフィードバックを収集し、価値創造プロセスに反映させる。
– フレームワークの使用時の注意点: 対話とエンゲージメントは、単方向ではなく双方向のプロセスであるべきです。企業はステークホルダーからの入力を真摯に受け止め、必要に応じて戦略やアプローチを調整する柔軟性を持つ必要があります。
これらのフレームワークは、企業が長期的な価値創造を目指し、持続可能な発展を達成するためのガイドラインとして機能します。各フレームワークは互いに関連しており、一貫したアプローチで取り組むことが重要です。また、これらのプロセスは静的なものではなく、外部環境や内部状況の変化に応じて柔軟に進化し続ける必要があります。そのため、継続的な評価と改善が、成功への鍵となります。
まとめ
価値協働ガイダンスは、持続可能な社会の実現に向けて企業とステークホルダーが共に価値を創造していくための指針です。このガイダンスは、企業が直面する現代の課題に対応し、長期的な視野での戦略立案、実行計画の策定、そして持続可能な成長を目指す上での具体的な手法を提供します。
経済産業省によって策定・改訂されたこのガイダンスは、企業が社会的責任を果たし、経済的価値だけでなく、社会的価値も創造するための基盤となります。
企業経営者にとって価値協働ガイダンスは、企業が持続可能性を核とした経営を実践するうえでの指針となり、企業価値の長期的な向上に寄与します。また、サステナビリティやESGに関心を持つ投資家にとって、企業がこのガイダンスに基づいて行動することは、投資判断の重要な基準となり得ます。
「価値創造ガイダンス」の6つのフレームワークは、企業が取り組むべき核心的な領域を示し、それぞれが企業の持続可能な成長と価値創造に不可欠な要素であることを明らかにします。これらのフレームワークを通じて、企業は自らのビジョンと使命を明確にし、ステークホルダーとの信頼関係を深め、社会的課題の解決に向けて積極的に貢献できるようになります。
最終的に、価値協働ガイダンスの実践は、企業が社会的・環境的課題に対して積極的に取り組み、持続可能な未来への貢献を目指す上で、経営戦略としても、投資判断の観点からも、重要な意味を持ちます。このガイダンスに沿った活動は、企業と投資家双方にとって、長期的な価値創造という共通の目標に向かって前進するための道標となるでしょう。
参考論文
– 経済産業省, 価値協創ガイダンス 2.0（2022年）
– 経済産業省, 伊藤レポート3.0（2022年）
