価値創造ストーリーとは?定義から作成方法、好事例までを網羅的に解説

価値創造ストーリー

「価値創造ストーリーって何?」

「どうやって作成するのが良いのかな?」

自社で統合報告書を作成する際に、このような悩みを抱えるサステナビリティ担当者の方々も多いのではないでしょうか?

自社がどのように長期にわたって価値創造をするのかの過程を分かりやすくステークホルダーに対して伝えるためには、価値創造ストーリーの作成が非常に効果的です。

本記事では、そもそも価値創造とは何か?価値創造モデルの基本である「オクトパスモデル」について、また優れた価値創造ストーリーを作成する3つの観点と、金融庁から高い評価を得ている双日株式会社、カゴメ株式会社、オムロン株式会社の例をお伝えし、企業の価値創造ストーリーの理解と実践をサポートする知見を提供します。

ぜひ、最後までご覧ください。

価値創造ストーリーとは何か?

価値創造ストーリーとは、企業が事業活動を通じて、どのように短・中・長期的な価値を創造し、これらを維持するのかを、その企業固有のオリジナリティのある形で、物語(ストーリー)として分かりやすく説明することです。

自社の価値創造ストーリーを説明するために、「組織概要と外部環境」「ガバナンス」「機会とリスク」「戦略と資源配分」「ビジネスモデル」「実績(パフォーマンス)」「将来の見通し」という「7つの内容要素」が必要になります。

 オクトパスモデルとは何か

オクトパスモデルは、国際統合報告評議会(IIRC)が提唱する統合フレームワークで説明される「価値創造プロセス」のモデルを指し示す図表のことです。

IFR(2014), 国際統報告フレームワーク日本語訳 P15より引用

具体的には、企業が資本をどのように使って価値を創造するかを図示したものです。企業がどのように使命とビジョンを定義し、適切な資本を投入して事業活動を行い、その結果として社会や環境にどのような影響を及ぼすかを示します。このプロセスには、リスクと機会の特定、戦略の練り込み、資源の配分、実績と見通しの提供が含まれます。

IIRCの解説記事はこちらから

優れた価値創造ストーリーを作成するためには?

優れた価値創造ストーリーの作成のためにはどのような観点が重要なのでしょうか?三菱UFJリサーチ&コンサルティングの大野知也、川田真寛 (2022)は、優れた価値創造ストーリーを資本の言語化、ビジネスモデルの定義、ESGの論点設定の3点で説明しています。

1. 資本の言語化

資本の言語化とは、企業が所有するあらゆる資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)を明確に識別しそれらがどのように価値創造プロセスに寄与しているかを分かりやすく説明することです。

具体的には、各資本の現状、将来にわたって企業価値にどのように貢献するか、そしてその資本をどのように管理し、発展させるかについての情報を提供します。資本の言語化を通じて、企業はステークホルダーに対し、資本の保持状態とそれらが持続可能なビジネスの成長にどう影響するかを明確に伝えることができます。

2. ビジネスモデルの定義

ビジネスモデルの定義では、企業がどのようにして価値を創造し、提供し、キャプチャするかを説明します。

このプロセスには、事業の核となる活動、主要な顧客セグメント、価値提案、主要な収益源、コスト構造、および企業が直面するリスクと機会が含まれます。

ビジネスモデルを明確に定義することで、企業は内外のステークホルダーに対して、事業がどのように競争優位性を築き、市場のニーズに応え、持続可能な成長を達成するかを示すことができます。ビジネスモデルの定義は、企業が取り組んでいる戦略的な方向性とその実行方法についての理解を深めるために不可欠です。

3. ESGの論点設定

ESGの論点設定では、環境(Environmental)、社会(Social)、およびガバナンス(Governance)の各側面において、企業がどのように社会的責任を果たし、持続可能な価値創造を進めているかを明らかにします。これには、気候変動への対応、資源の持続可能な使用、従業員および地域社会との関係、企業倫理とコンプライアンスなど、企業活動が環境や社会に及ぼす影響に対する戦略と実践が含まれます。

ESGの論点設定を通じて、企業は持続可能な発展に対する取り組みと成果を具体的に示し、投資家やその他のステークホルダーからの信頼を得ることができます。

以上の3つのポイントは統合報告書における価値創造ストーリーの核心部分を形成し、企業がどのように長期的な価値を創造し、維持し、そして報告するかについての透明性と理解を深めます。これらの要素は、企業が直面する複雑なチャレンジに対処し、持続可能な成長を目指す上での基盤となります。

企業の価値創造ストーリー事例

金融庁が2023年に発行した「記述情報の開示の好事例集2022」では、高品質の統合報告書の作成における具体的な企業の事例として、双日株式会社、カゴメ株式会社、オムロン株式会社の3社が挙げられます。

それぞれの企業の価値創造ストーリーの概要と、なぜ優れていたのかについて見ていきましょう。

 双日株式会社

金融庁「記述情報の開示の好事例集 2022」2-6より引用

双日株式会社の価値創造ストーリーは、人材多様性とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に重点を置いています。

同社は、多様な人材が持つ異なる視点やスキルを活用し、新たな価値を創造することで持続可能な成長を目指しています。特にDXを通じて、業務効率化や新サービスの開発を促進し、社会的課題の解決に貢献しています。このアプローチは、従業員のスキルアップとキャリア開発を支援するとともに、企業の競争力強化にも寄与するため、人材・多様性の観点から非常に優れていると言えます

 カゴメ株式会社

金融庁「記述情報の開示の好事例集 2022」2-8より引用

カゴメ株式会社では、人材多様性を経営の中核に位置づけ、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを展開しています。同社は、多様な背景を持つ従業員が活躍できる環境の整備に努め、特に女性の活躍推進に注力しています。カゴメの価値創造ストーリーは、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、その力を社会的価値に変えていくことで、企業価値の向上を図る点で秀逸です。

 オムロン株式会社

金融庁「記述情報の開示の好事例集 2022」2-21より引用

オムロン株式会社は、人材多様性を重視し、イノベーションの源泉としています。同社は、異なる文化やバックグラウンドを持つ従業員が協力し合い、新たな価値を生み出すことで社会の課題解決に貢献しています。また、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を通じて、よりクリエイティブで革新的な組織文化を構築しています。オムロンの取り組みは、多様性を受け入れ、それを強みに変えることで、長期的な成長と社会貢献を実現している点で優れています。

3社の事例からわかる、優れた価値創造ストーリーの特徴とは?

1. 多様性の積極的な活用:上記の事例では、多様性を組織の競争力の源泉とみなし、様々なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境の整備に注力しています。このアプローチは、新しいアイデアやイノベーションを促進し、持続可能な成長を支える重要な要素です。

2. 社会的課題解決への貢献:これらの企業は、人材と多様性を活かしたビジネスモデルを通じて、社会的課題の解決に貢献しています。例えば、カゴメ株式会社は健康的な食生活の推進による社会貢献を、オムロン株式会社は医療技術の革新による健康増進を目指しています。このように、社会的課題に対する深い理解とそれを解決するための具体的なアクションを組み込むことで、企業の価値創造ストーリーはより魅力的になります。

3. 持続可能な成長と経営の統合:双日株式会社、カゴメ株式会社、オムロン株式会社は、持続可能性を経営戦略の核として位置付け、人材・多様性を含むサステナビリティの各側面をビジネスの成長と直結させています。経営とサステナビリティの目標が一体となっており、これにより長期的な競争優位性を確保し、ステークホルダーからの信頼を得ることができています。

これらの特徴は、企業が持続可能な社会に貢献しながら、同時に経済的価値も創出する「ダブルボトムライン」の追求に寄与しています。人材と多様性を価値創造の中心に置くことで、企業はより革新的で包摂的なビジネスモデルを構築し、社会とともに成長する道を切り拓いています。これらの企業から学ぶべきは、サステナビリティへの深いコミットメントと、それを実現するための戦略的な取り組みが、現代の企業にとって不可欠であるという点です。

双日株式会社、カゴメ株式会社、オムロン株式会社の価値創造ストーリーは、企業が持続可能性を経営戦略の中心に据えることの重要性を明確に示しています。これらの企業は、社会的、環境的価値を経済的価値創造に統合することで、新しいビジネスモデルの可能性を切り拓き、より良い未来への貢献を実現しています。持続可能な発展を目指す企業の役割は今後もますます重要になるでしょう。この記事が、持続可能性と企業の価値創造についての理解を深める一助となれば幸いです。

参考文献

・金融庁「記述情報の開示の好事例集 2022」

・大野知也、川田真寛 (2022). 統合報告書に記載する「価値創造ストーリー」のポイント. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング.

・朴 恩 芝. 高品質の統合報告書の作成要因 – オムロン・伊藤忠商事の統合報告書を中心に. 香川大学学術情報リポジトリ.

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